2 Dec 2011

規制改革の経済分析―電力自由化のケース・スタディ―(編著:八田達夫、田中誠)

独立行政法人経済産業研究所(RIETI)における「電力自由化研究プロジェクト」の研究成果を取りまとめた本書ですが、非常に刺激的な内容になっております。論文集なので部分的に読んでも参考になりますが、特に面白く最近の電力に関する議論の参考になると感じたのは面白い順番では3章、2章、1章です。

まとめると既に実施された改革(1章、2章)により電力価格にしてそれぞれ1円/kWh前後の効果を得られていますが、さらに大きな効果は域内競争の本格導入(3章)により得られるということで、3日間の最大電力に基づく分析である点と安定供給という観点からの示唆はない分析という点に留意は必要ですが、今後の制度変更の議論の際には是非参考にすべき先行研究だと考えます。


以下は、各章の具体的な内容です。(あまり興味を持てなかった4章以降については割愛します、興味が有る方はご一読ください)

3章:電力市場における市場支配力のシミュレーション分析
 北海道と沖縄を除いた8発電者各社が供給量を定めるクルーノー競争を行い発電電力価格への影響力を持つ一方で送電料金は所与で送電価格支配力をもたず地域間の裁定機会もなしという想定で、各地域内の電力会社を分割して競争を導入した場合の消費者料金単価シミュレーションを行なっています。

 分析結果としては、ベースケースでは東西での単価差が6.43円/kWhにもなり、50Hz/60Hzの切り替えボトルネックとなる東京と中部の東西連系線は送電量はフル送電になります。まず東西連系線の容量を1200MWから2倍、3倍と高めていくと東側(東北・東京)の値段は下がり、西側(中部のみ)の値段が上がり、7200MW(現状の6倍)まで高めることで、他の西地域との価格差は2円/kWh超残りますが3地域(東北、東京、中部)の価格差は解消されます。

 また、東西連系線増設ではなく東電(文中ではG社となっていますが数字や地理的に自明です)を2分割~4分割として管内に価格競争をもたらすと1分割のときは19.23円/kWhだった価格が、2分割:14.45円/kWh、3分割:12.79円/kWh、4分割:12.26円/kWhと分割数が増えることで低下し(マークアップ率は68.7%から39.3%へ低下)、4分割では従来と逆転して東から西へ電力が流れるまでになります。

 さらに、東電を6分割(!)、他社を2分割した非常にアグレッシブなシナリオ分析では、価格は10.61円/kWhまで減少しており、完全競争想定時の7.3-7.5円のレンジには及ばないものの、非常に安価な電力供給がなされるようになります。


2章:送電料金改革の効果分析―パンケーキ方式から郵便切手方式へ―
 送電料金をパンケーキ方式(バーチャルに託送時の通過地域が重なるごとに課金を重ねる)から郵便切手方式(需要家立地に応じて発電者の場所を問わず全国一律に課金する)へ切り替えたことにより、完全競争下の前提で各地域における競争圧力が変化することを想定した全国的な電力の潮流図(連系線の送電量を含む)と生産者・消費者余剰等を分析しています。

 分析結果としては、パンケーキ方式からの変更により西から東への潮流が起きるものの、東京の揚水発電容量の電力供給寄与率を一定のレンジ(50%)に置いた場合には東西の連系線がパンクするほどの送電量にはならない(ただし、40%にした場合にはフル送電になりますが)ということが分かります。

 また、東京の揚水発電の想定をどちらのレンジにおいても、パンケーキ方式よりも郵便切手方式の方が東京の消費者価格は1円/kWh前後低くなるという結果が導き出されます。


1章:電力自由化はいかなる効果を持ったか―1990年代から現在までの定量的政策評価―
 95年の発電自由化、99年の小売部分自由化の効果を、実際の財務諸表数値をベースにして制度変更を表現するダミー変数を含めた回帰分析で推測しています。

 分析結果としては、98年度の供給費用を基準とした時に03年度時点では供給費用は16%(3.3円/kWh)低減しておりそのうち37%(1.3円/kWh)が制度変更の影響で、残りの63%(2.1円/kWh)の外的要因の変化のうち長期金利変化が40%、需要増加率変化が16%、燃料費変化が7%とまとめております。制度変更の影響は確かにあったが、実際には長期金利低下の影響が単独では最も大きかったのは若干皮肉ですね。

 さらに同じような部分自由化が他の産業にも同様の影響を与え得るかということでガス産業の自由化に当てはめて試算しており、ガス事業では電力とは異なって家庭用料金への価格変化は起こらずもっぱら産業用価格の変化に結びついており、さらに社会全体の総余剰は減少したと結論づけて、部分自由化への政策提言として1)経営情報の公開促進と2)経済厚生の常態的な監視と勧告制度の創設を提言しています。



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