21 Mar 2012

電力関連で三冊:国策民営の罠、なぜメルケルは「転向」したのか、東京電力 失敗の本質

電力関連で三冊ほど読みました。「国策民営の罠―原子力政策に秘められた戦い」は原子力損害賠償法設立の経緯を推察した後半は読む価値アリ、「なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力四〇年戦争の真実」は政治過程論としてはラフすぎるがまあ読み流しても面白い読み物、「東京電力 失敗の本質―「解体と再生」のシナリオ」は読む価値なし、という評価です。出せば売れるだけあって、だいぶコンテンツの品質が玉石混交(というか外れのものが多い)ですね。

前半の原子力発電がビジネスモデルとして破綻しているかどうかという議論は、海外試算の紹介程度で計算も議論も粗く、例もわかりにくいだけなのであまり役には立ちません。唯一、事実上の国策推進とすることで資本コストを下げていたという指摘だけ面白いと感じましたが、経済書ならば電力債金利の国債との比較と原子力発電割合の関係あたりを分析してほしいところです。

一方で後半の、五十年前の原子力損害賠償法の設立経緯を紐解いて行くところば読み応えがあり、明確な国家負担を盛り込んだ吾妻答申案に対して、国の負担を抑制したい旧大蔵省の下書きのもと現在の体制があるということが分かってきて面白いです。また、政権が変わったことで、原賠法十六条を解釈適用して支援して破綻もさせないことを政治的に避け、将来に渡る事業者負担を破綻に代わるある種の「見せしめ」として求める現行スキームは、パトスとルサンチマンの政治が優勢であるこの国には似合っているように思えました。


現実的なメルケル首相の対応、1980年から活動する緑の党、German Angst (ドイツ人の不安)、といったキーワードから、ドイツが東日本大震災後に可及的速やかに原子力発電所の段階的廃止になぜかじを切ったのか、何が日本と違うのか、を分析というか歴史の振り返りと印象論から説明していく「エッセイ」です。どちらかというとドイツ人論に近い本でした。一部眉唾な論も含まれてはいましたが、概ね読み物としては面白く読むことができました。


筆者の橘川先生は、10電力中7電力の社史編纂に関わったことがあるとそうですが、確かに歴史的経緯や各社の社員の雰囲気についてはそうなのだろうな、という記述が多いです。

ただ、技術的な理解や説明が曖昧であったり、提示される改革案(原子力を一般電気事業者から切り離して国営化、その他は垂直統合のまま民営)には電力制度全体や今後のエネルギー需要を見極めた視点がなく、競争が起こらないのも「暗黙の了解があるのではないか」といった曖昧な原因を指摘するにとどまり、何故地域独占が守られ相互地域への参入が少ないのかについてアクセスチャージ(託送料)という本質的な経済性を左右する点に全く触れていないのは片手落ちどころでは言えないかと思います。

なお、個人的には、東京電力企画部だけが経済学的な合理性を問う論争・理論武装をなしていたという記述を興味深く、東京電力には、おそらく記者会見とかでは出てこないようなミドル層や企画部は大変(学問的に)優秀な方がいるのだと推測しますが、彼らの力が活かせているかと思うと、ある種「垂直統合絶対」に縛られているので残念ではあります。




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