27 Jan 2011

競争の作法(著:齋藤誠)

競争は蔑むのは間違っているし、かといってあんなしんどいものを善だと言い含める言説も間違っているというのは非常に共感が持てました。

資本・土地が効率的に活用された方が特になるようなインセンティブ構造を作り直す(投資制度のイノベーション)とともに、人々は無駄な仕事をなくして生産性を向上させ、余剰時間で「市場競争」以外の生き方の美学を見出す(働き方のイノベーション)という、二つのイノベーションを同時並行に進めないといけない点は同意しますが、具体的な方策の提示が少ないことが残念です。

余談ですが、生産性向上というのは、我々の行っている「経済ゲーム」の基本ルールの根っこであり、ゲームに乗る以上安易に避けては通れない道ですが、たとえゲームに負けても「食って」いけるようなセーフティーネット、幸福を得られるようなパブリック・グッズのある種ボランタリーな交換活性化といった課題も、同時に解いていかないといけないのでしょう。そこまで広げた経済学の議論を期待します。

本書の結論:

  • 一人一人が真正面から競争と向き合う
  • 株主や地主など、持てる者が当然の責任を果たしていく
  • 非効率な生産現場に塩漬けにされている労働や資本を解き放ち、人々の豊かな幸福に結びつく活動に充てていく


面白かった統計数字:

  • 2002年~2007年の戦後最長の経済成長(GDP11.1%増)の大半は、リーマンショックで吹っ飛んだ(2008年Q1から2009年Q1で8.6%減)
  • 同経済成長期間の就業者数増は1.3%増で、同じくリーマン・ショック前後で0.8%減、雇用者報酬では2.6%増/2.1%減、なんと実質現金給与総額では1.4%減/3.0%減と、経済成長の恩恵は雇用者に分配されていない
  • 輸出額から輸入額を差し引いた純輸出実質額が2008年では27兆円だが、円安と資源高の影響による交易損失26兆円。輸出による差分相当の所得が国外移転していた。(2004年では純輸出実質額14兆円、交易損失4兆円)
  • 同時期の、実質ベースの過去10年間平均企業収益(シラー式)で見たPERは、プラザ合意後バブル期なみの100倍前後(その間は40倍前後を推移)
  • 1981年以降2005年までの家計が、直間の資本市場を通じた資金供給による民間設備投資で被ったキャピタルロスは累積150兆円程度(2000年を基準値)。1990年代は年間20兆円程度のキャピタルロス、一方で同時期の民間設備投資は年間70兆円程度なので3割近くが死に金

自分なりのインプリケーション:
競争は蔑むのは間違っているし、かといってあんなしんどいものを善だと言い含める言説も間違っているというのは非常に共感が持てました。

資本・土地が効率的に活用された方が特になるようなインセンティブ構造を作り直す(投資制度のイノベーション)とともに、人々は無駄な仕事をなくして生産性を向上させ、余剰時間で「市場競争」以外の生き方の美学を見出す(働き方のイノベーション)という、二つのイノベーションを同時並行に進めないといけないですね。

生産性向上というのは、この「経済ゲーム」の基本ルールの根っこであり、ゲームに乗る以上安易に避けては通れない道ですが、たとえゲームに負けても「食って」いけるようなセーフティーネット、幸福を得られるようなパブリック・グッズのある種ボランタリーな交換活性化といった課題も、同時に解いていかないといけないのでしょう。

余談ですが、お金の流れを考えていると、何も考えずに預金して国債にお金が流れるのを黙認していることのしっぺ返しを、日本国民は遅かれ早かれ受けるというのは決してunfairではない気がしてきます。

26 Jan 2011

Money runs

Found in the entry at Oki Matsumoto's blog.
Easy to understand how money goes through different accounts:

It is a slow day in the small Saskatchewantown of Pumphandle and Streets are deserted. Times are tough, everybody is in debt, and everybody is living on credit.
A tourist visiting the area drives through town, stops at the motel, and lays a $100 bill on the desk saying he wants to inspect the rooms Upstairs to pick one for the night.
As soon as he walks upstairs, the motel owner grabs the bill and runs next door to pay his debt to the butcher.
The butcher takes the $100 and runs down the street to retire his debt to the pig farmer.
The pig farmer takes the $100 and heads off to pay his bill to his supplier, the Co-op.
The guy at the Co-op takes the $100 and runs to pay his debt to the Local prostitute, who has also been facing hard times and has had to Offer her "services" on credit.
The hooker rushes to the hotel and pays off her room bill with the hotel Owner.
The hotel proprietor then places the $100 back on the counter so the traveler will not suspect anything.
At that moment the traveler comes down the stairs, states that the rooms are not satisfactory, picks up the $100 bill and leaves.
No one produced anything. No one earned anything... However, the whole Town thinks that they are now out of debt and there is a false atmosphere of optimism. And that, ladies and gentlemen, is how a "stimulus package" works.

22 Jan 2011

財政危機と社会保障(著:鈴木亘)

財政危機と社会保障 (講談社現代新書)


  • 2010年度予算=財務(公債発行-償還+埋蔵金)で34兆円プラス=税収-支出で34兆円マイナス
    • 増税アプローチでは税率を倍近くしないとプライマリーバランス達成不可
    • 支出削減は避けられないが、支出の多くを占める社会保障「関係」費の20兆円は年金・医療保険・介護保険への補填で、全体で27兆円の年間1.3兆円の増加を容認
    • 2015年までにプライマリーバランス赤字を半減(=17兆円マイナス)、2020年までにプライマリーバランス達成のためにはメスをいれる必要
  • 政府債務対GDP費は200%超、ネット債務でも100%近い
    • 第二次大戦直後の財政状況に類似
    • 1945年秋から1949年春の3年半に消費者物価指数が98倍のインフレで解消
  • 日本の生産年齢人口は1995年の8700万人でピークアウト、2030年には7000万人(約2割減)、さらに2010年には2500万人になる可能性も
    • 高齢者を現役何人で支えるかは現在3人で1人が、2025年には2人で1人に
    • 年金の世代間賦課方式の維持には労働生産性向上and/or労働投入割合増加で年間2.7%改善を15年続ける必要
    • 00-05年の生産性上昇率が2.4%であることと、インフレ率を考えると不足(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07f21020.html)
  • 社会保障サービス(医療/介護/保育)は高い参入障壁と価格統制により、イノベーションが起きにくい業界構造になってしまっている
    • サービス業故にコストの大半は、価格統制の結果低く抑えられている人件費
    • 家計から徴収した税金が、設備投資に回るよりもほとんど家計にぐるっと戻るだけ
    • 現状の構造を維持したたまま、社会保障に公的資金をシフトする政策は成長戦略的には誤り